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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)3167号 判決

控訴人(原告) 鹿倉忠雄

右訴訟代理人弁護士 宇都木浩

被控訴人(被告) 鹿倉省美

右訴訟代理人弁護士 東由明

主文

一、原判決の被控訴人関係部分のうち、金員の支払請求に関する部分を次のとおり変更する。

1. 被控訴人は、控訴人に対し、金一八万二二二二円及びこれに対する昭和五六年一月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2. 控訴人のその余の請求を棄却する。

二、控訴人と被控訴人の間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三〇分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

三、この判決は、第一項の1.に限り、仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 控訴人

「①原判決の被控訴人関係部分のうち、金員の支払請求に関する部分を取り消す。②被控訴人は、控訴人に対し、金七八一万〇一〇〇円及びこれに対する昭和五六年一月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。③訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、並びに右②、③についての仮執行の宣言。

2. 被控訴人

控訴棄却の判決。

二、当事者の主張

1. (控訴人の請求原因)

(一)  控訴人は、昭和四三年一〇月二三日、鹿倉長治郎(以下「長治郎」という。)に対し、大阪商船三井船舶株式会社(以下「商船三井」という。)の株式二万株分に相当する一〇〇〇株券二〇枚(以下、一括して「本件株券」という。)を、長治郎の借受金の担保に使用させる目的で、返還時期の定めなく、無償で貸渡した。なお、その際、長治郎は、控訴人に対し、借受けにかかる本件株券そのものの返還を約したものであり、本件株券の右貸借関係は使用貸借に該当するものである。

(二)  ところが、長治郎は昭和四四年一二月一六日死亡し、右使用貸借は同日限り終了した。そして、これに伴い、使用貸借の終了に基づく本件株券の返還債務(不可分債務)は、長男の被控訴人を含む長治郎の相続人らにより、不可分的に承継された。

(三)  しかるに、本件株券は昭和四六年二月一二日小川信用金庫川越支店(以下「小川信金」という。)によって売却され、第三者がその権利を取得したため、前記相続人らの本件株券返還債務は履行不能となったものであるところ、これにより控訴人は次のとおり合計七八一万〇一〇〇円相当の損害を被った。

(1)  本件株券の時価相当額 四七六万円

本件株券にかかる権利を喪失したことにより通常生ずべき損害として、控訴人は、右喪失時から本件口頭弁論終結時までの任意の時期における株価を基準とし、その賠償を求め得るものというべきであるが、公平の見地から本件訴訟提起の前日(昭和五五年一二月七日)の株価二三八円を基準として算定したものである。

(2)  新株引受権の喪失による損害 一八八万円

商船三井は、昭和四六年三月三一日現在の株主に対し、持株二株につき一株の割合で、増資のための新株を割当て、同年七月一日右新株を発行したが、控訴人は、本件株券が売却されたことにより、控訴人に割当てられるべきであった一万株の右新株引受権を喪失し、一万株分の前記時価相当額二三八万円から払込金五〇万円(一株につき五〇円)を控除した一八八万円相当の損害を被った。なお、小川信金による本件株券の売却当時、右新株の発行は一般に予知されていたので、控訴人の右損害もいわゆる通常損害に該当するものである。

(3)  得べかりし配当金相当額 一一七万〇一〇〇円

控訴人が本件株券を保有し、右新株を取得していたとすれば、昭和四六年三月期(ただし、新株一万株については同年九月期)から昭和五五年三月期までの三万株分の配当金として計一一七万〇一〇〇円を取得し得たものである。

(四)  よって、控訴人は、長治郎の相続人の一人である被控訴人に対し、本件株券の返還に代る填補賠償として、前記損害金合計七八一万〇一〇〇円と、これに対する本件訴状送達の翌日である昭和五六年一月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。なお、右填補賠償債務は、本件株券返還債務が長治郎相続人らの不可分債務であったことに伴い、当然に右相続人らの不可分債務に当るものというべきである。

2. (請求原因に対する被控訴人の認否)

請求原因(一)の事実中、長治郎がその借受けにかかる本件株券そのものの返還を約したことは否認するが、その余は認める。本件株券の貸借にあたっては、本件株券と同種同量の株券を返還すべきことが合意されていたものであって、右貸借関係は消費貸借に当るものである。

同(二)のうち、長治郎が昭和四四年一二月一六日死亡したこと、被控訴人が長治郎の長男であり、相続人の一人であることは認めるが、その余は争う。

同(三)の事実は知らない。法律上の主張は争う。

同(四)も争う。なお、仮に長治郎の相続人らが控訴人に対し本件株券を返還すべき債務を不可分的に負担したものであるとしても、これに代る填補賠償債務は当然に可分債務であって、相続人の一人にすぎない被控訴人がその全額を負担すべきいわれはない。

3. (被控訴人の抗弁)

(一)  本件株券は、長治郎が控訴人から借受け、長治郎の後妻である鹿倉まつが、その子(長治郎の養子)である鹿倉健一(原審相被告)の名義で小川信金から金銭を借受けて、その担保に供したものであるところ、小川信金が控訴人主張のとおり右担保権の実行として、本件株券を売却したものであるとしても、被控訴人は右金銭の借受け、担保の提供に何らの関与もしていないから、本件株券返還債務の履行不能につき、被控訴人の責に帰すべき事由はない。

(二)  被控訴人を含む長治郎の相続人らは、長治郎の相続に関し、浦和家庭裁判所川越支部に限定承認の申述をしたところ、同申述は、昭和四五年四月一五日、同支部により受理され、かつ、同日、被控訴人が相続財産管理人に選任された。そこで、被控訴人は、相続財産管理人として、同年七月三日付け官報で、相続債権者、受遺者に対し、期間を定めて請求申出の催告をしたが、控訴人は、右期間内に請求の申出をしなかった。したがって、仮に控訴人が長治郎の相続債権者であるとしても、残余財産はなく、弁済から除斥されたものである。

(三)  本件株券の返還債務は、弁済期の定めのない消費貸借により生じたものであるから、借受けの日である昭和四三年一〇月二三日から一〇年の経過によって時効消滅すべきはずのものである。また、仮にそれが控訴人主張のとおり返還期の定めのない使用貸借により生じたものであるとしても、長治郎死亡の日である昭和四四年一二月一六日から一〇年の経過によって時効消滅すべきはずのものである。しかるところ、控訴人の本訴請求にかかる填補賠償債務は、本来の本件株券返還債務の内容が変更されただけで、その同一性は失われていないのであるから、右返還債務と同じ時期に消滅時効が完成するものといわなければならない。そうすると、右填補賠償債務は、いずれにしても本訴提起時においてすでに消滅時効が完成していたものである。そこで、被控訴人は、昭和六〇年一一月二六日の当審第一六回口頭弁論期日において、右時効を援用する旨の意思表示をした。

4. (抗弁に対する控訴人の認否)

抗弁(一)のうち、長治郎、鹿倉まつ、鹿倉健一の各身分関係に関する事実は認めるが、その余は否認する。なお、小川信金が担保権の実行として本件株券を売却したことは前記請求原因(三)のとおりである。

同(二)のうち、被控訴人を含む長治郎の相続人らが、長治郎の相続に関し、浦和家庭裁判所川越支部に限定承認の申述をしたところ、被控訴人主張の日に同申述が受理され、被控訴人が相続財産管理人に選任されたことは認めるが、その余は否認する。被控訴人は、知れたる債権者である控訴人に対し、民法九二七条による催告をしなかった。

同(三)の主張は、時効援用の意思表示の点を除き、すべて争う。控訴人は、本件株券について所有権に基づく返還請求権をも有していたものであるところ、同請求権は時効により消滅すべき性質のものではないから、本件株券が売却された昭和四六年二月一二日に発生した填補賠償請求権につき、同日以前を起算日とする消滅時効の問題は生じない。

5. (控訴人の再抗弁)

(一)  被控訴人を含む長治郎の相続人らは、限定承認にあたり調整すべき財産目録に、いずれも悪意で、消極財産たる本件株券の返還債務を記載しなかったばかりでなく、積極財産として最も重要であって、資産価値のあるほとんど唯一の相続財産ともいうべき別紙目録記載の二筆の土地(以下「本件土地」という。)をも記載しなかったから、民法九二一条三号により単純承認をしたものとみなされる。

(二)  被控訴人及び鹿倉まつは、昭和四九年ごろまで本件株券の返還債務、又はこれに代る填補賠償債務を負担することを常に認めていたものであり、これにより右各債務を承認したものである。

6. (再抗弁に対する被控訴人の認否)

再抗弁(一)のうち、被控訴人を含む長治郎の相続人らが財産目録に本件株券の返還債務及び本件土地に関する記載をしなかったことは認める。ただし、悪意により記載しなかったわけではなく、本件株券については借受けの事実を知らなかったからであり、本件土地については、その当時すでにグリコ協同乳業株式会社の申立てに基づく強制競売手続が行われていたうえ、本件土地を鹿倉まつに遺贈する旨の長治郎の公正証書遺言が存在するなどの事情があったため、これを財産目録に記載すべきかどうか知人の弁護士に相談したところ、その必要がない旨の教示を受けたからである。控訴人のその余の主張は争う。

同(二)の事実はいずれも否認する。

三、証拠関係〈省略〉

理由

一、まず、控訴人主張の請求原因について判断する。

1. 控訴人が、昭和四三年一〇月二三日、長治郎に対し、商船三井の株式二万株分に相当する本件株券を、長治郎の借受金の担保として使用させる目的で、返還時期の定めなく、無償で貸渡したこと、長治郎が昭和四四年一二月一六日に死亡したこと、被控訴人が長治郎の長男であって、相続人の一人であること、以上の事実は当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉によると、控訴人はいわゆる資産株として本件株券を所有していたものであり、長治郎に対する貸渡しにあたっては、本件株券は長治郎が他から融資を受けるための担保としてのみ使用し、長治郎において融資金を返済してこれを取り戻したうえ、貸渡しを受けた本件株券そのものを返還することが当然のこととして控訴人と長治郎の間で予定されていたこと、したがって、本件株券は特定物として貸借の対象とされたものであり、その貸借関係は使用貸借に該当するものであること、長治郎は、本件株券借受け後間もなく、これを担保として差し出したうえ、その経営にかかるいずみ製菓株式会社の資金繰りのため、養子である鹿倉健一(この点は当事者間に争いがない。)の名義を用いて、小川信金から一八〇万円を借受けたこと、長治郎死亡当時、同人には妻である鹿倉まつ(この点も当事者間に争いがない。)のほか、被控訴人及び右健一を含めて六名の実子・養子があり、以上の七名が長治郎の相続人のすべてであること、小川信金は、約定の弁済期を経過しても、前記貸付けにかかる一八〇万円につき、その大部分の弁済がないため、昭和四六年二月一二日、担保権の実行として、証券会社を通じて、本件株券を当時の相場価格一六四万円(一株につき八二円)で売却し、その売得金をもって右貸付金の弁済に充当したこと、なお、右売却により、本件株券にかかる権利はすべて、その買主が取得し、控訴人はこれを喪失したことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

2. 叙上の事実関係に照らすと、控訴人・長治郎間の本件株券の貸借、すなわち使用貸借関係は、長治郎の死亡により昭和四四年一二月一六日限りで終了し、被控訴人を含む長治郎の相続人らが不可分債務たる本件株券返還債務を承継するに至ったが、昭和四六年二月一二日、小川信金が本件株券を売却し、第三者がその権利を取得したことにより、右返還債務は履行不能に陥ったものであるところ、これにより控訴人が右売却価格に相当する一六四万円の損害を被ったことは明らかである。この点に関し、控訴人は、右履行不能が生じたときから本件口頭弁論終結時までの間において、控訴人の選択する任意の時期における株価を基準として右損害額を算定することが許される旨主張するが、前記返還債務の履行不能が生じた際に、長治郎の相続人らがその後における商船三井の株価の変動(騰貴)を予見し、又は予見し得べき特別の事情がないかぎり、右履行不能時における交換価格(株価)相当額が本件株券にかかる権利の喪失によって控訴人に生じたいわゆる通常損害に当たるものと解されるところ、右特別の事情についての主張立証はないから、控訴人の前記主張は採用できない。また、控訴人は、本件株券が売却されたことにより、新株引受権及び得べかりし配当金を喪失し、これに基づく損害を被った旨を主張するが、新株の発行と株主に対する割当てが一般に予知されるときは、予知される限度において、当然にそれが株価に反映すること、株式の取引価格中には、当該株式に対する配当の見込みが当然に折込まれていること、以上の点はいずれもその事柄の性質に照らし明らかというべきところ、控訴人主張の新株引受権、得べかりし配当金の喪失につき、これと異り、その損害の賠償請求を是認すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

3. そうすると、被控訴人を含む長治郎の相続人らは、控訴人に対し、本件株券返還債務の履行不能に基づき、その元本を一六四万円とする限度で填補賠償債務を負担するに至ったはずのものであるところ、同填補賠償債務はその性質上、可分債務であり、不可分債務たる本件株券返還債務が可分債務に変じた場合に当たるから、右相続人らは、それぞれその相続分に応じて履行の責に任ずべきものであり(民法四三一条)、右填補賠償債務が不可分債務に該当する旨の控訴人の主張は独自の見解に基づくものであって、採用のかぎりでない。そして、長治郎の相続人に関する前記認定事実によれば、被控訴人の相続分は九分の一であることが明らかであるから、被控訴人が履行の責に任ずべきはずの右填補賠償債務元本は一八万二二二二円となる。

二、そこで、次に、被控訴人の抗弁及び控訴人の再抗弁について検討する。

1. まず、被控訴人がその抗弁(一)において主張する事実関係をもってしては、長治郎の本件株券返還債務の承継人たる立場にある被控訴人について、右返還債務の履行不能がその責に帰すべからざる事由により生じたものといえないことは明らかであるから、右抗弁(一)は主張自体失当として排斥を免れない。

2. 次いで、被控訴人の抗弁(二)及びこれに対応する控訴人の再抗弁(一)についてみるに、長治郎の相続に関し、被控訴人を含む長治郎の相続人らが浦和家庭裁判所川越支部に限定承認の申述をし、同申述が昭和四五年四月一五日に受理され、被控訴人が相続財産管理人に選任されたこと、右相続人らが右申述にあたり調整すべき財産目録中に、積極財産としての本件土地、及び消極財産としての本件株券返還債務の各記載をしなかったことは当事者間に争いがないところ、〈証拠〉によると、本件土地は長治郎が所有していた資産価値のあるほとんど唯一の相続財産であったにもかかわらず、また、鹿倉まつ及び健一は長治郎が控訴人から本件株券を借受けたことを当初から承知していたものであり、被控訴人も長治郎死亡後間もなくその事実を知るに至ったにもかかわらず、前記限定承認の申述にあたり調整された財産目録には、長治郎の衣類その他の身の廻り品数点が記載されていたにすぎないこと、そのうえ、相続財産管理人たる被控訴人は、控訴人に対し、請求申出の催告(民法九三六条三項、九二七条二項、七九条三項)をせず、鹿倉まつは、すでに強制競売手続が進行中であった本件土地につき、長治郎の公正証書遺言による遺贈を原因として、昭和四五年一〇月二七日付けで所有権取得登記を経由し、昭和四七年三月二三日、本件土地競売代金の配当剰余金として、競売裁判所から三四一万五一七二円の交付を受け、これを取得したことが認められ、これら認定事実に弁論の全趣旨を総合すれば、長治郎の相続人らが前記財産目録に本件株券返還債務及び本件土地所有権に関する記載をしなかったことについて、同人らの「悪意」の存在を推認できるものというべきである。前顕被控訴人本人尋問の結果中、右の認定ないし推認に反する部分は、その他の前顕採用証拠並びに弁論の全趣旨に徴し、たやすく信用できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。してみると、長治郎の相続につき、民法九二一条三号の適用を主張する控訴人の再抗弁(一)は理由があり、これにより被控訴人の抗弁(二)は理由がないことに帰したものといわなければならない。

3. 最後に、被控訴人の抗弁(三)及びこれに対応する控訴人の再抗弁(二)について考えるに、本来の債務が填補賠償債務に転化したとき、填補賠償債務の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行を始める、と解すべきものであるところ、本件につき、右本来の債務に当たる使用貸借終了に基づく本件株券返還債務の履行期が昭和四四年一二月一六日であること、したがって、控訴人は、同日以降、被控訴人を含む長治郎相続人らに対し、右返還債務の履行を請求し得たことは、前記一認定の事実関係に照らし明らかであるから、同返還債務の履行不能により生じた填補賠償債務にかかる消滅時効の起算点も右同日といわざるを得ない。しかるに、控訴人の本件訴訟提起の日が昭和五五年一二月八日であることは記録上明白であり、したがって、その時点において、右填補賠償債務について、すでに一〇年の消滅時効期間が経過していたものと認めるほかはない。この点に関し、控訴人は、本件株券について、控訴人は使用貸借終了に基づく返還請求権のほか、所有権に基づく返還請求権をも有していたものであるところ、後者は時効により消滅すべき性質のものではないから、本件株券にかかる権利を第三者が取得したことによりその請求権の基礎が失われた昭和四六年二月一二日まで、前者の履行不能により生じた填補賠償請求権の消滅時効は進行しない、という趣旨の主張をするけれども、そのように解すべき法理上の根拠は見いだしがたいので、右主張は採用できない。

しかしながら、〈証拠〉によると、長治郎の死亡後、控訴人は、しばしば、被控訴人に対し本件株券又はこれに代る商船三井の株券の返還を催告していたこと、これに対し、被控訴人は、右返還責任そのものの不存在を主張して争ったことはなく、昭和四九年二月ごろに及んではじめて、前記認定の限定承認手続がとられたことを理由に、控訴人の右返還要求を拒絶するに至ったことが認められるところ、これら事実関係に徴すると、昭和四九年二月ごろの時点において、本件株券の返還債務ないしその代償債務、ひいては右返還債務に代る填補賠償債務について、少くとも黙示的に、被控訴人がこれを承認したことを肯認できるものというべきであり、以上の認定判断を覆すに足りる証拠はない。そして、右承認の時点から前記認定の本件訴訟提起の日まで、一〇年の消滅時効期間が経過していないことは明らかである。

そうすると、債務の承認による時効の中断を主張する控訴人の再抗弁(二)は理由があり、これにより消滅時効の完成を主張する被控訴人の抗弁(三)は理由がないことに帰したものというべきである。

三、以上の次第で、控訴人の本件損害賠償請求は、被控訴人に対し、本件株券の返還に代る填補賠償として、一八万二二二二円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年一月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、認容すべきであるが、その余は理由がないものとして棄却を免れない。よって、これと結論を異にする原判決の被控訴人関係部分のうちの損害賠償請求(金員支払請求)に関する部分を右の趣旨に変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 尾方滋 橋本和夫)

〈以下省略〉

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